航跡も無く

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世間(よのなか)を 

何にたとへむ

朝開き

漕ぎ去(い)にし船の

跡もなきごとし

              沙弥満誓

航跡も無く― 世間を何にたとへむ
          ―――万葉集より――― 


世の中を何にたとえようか
港に泊まっていた船が
夜明けに漕ぎ去ってしまった
あとにはその痕跡さえ残らない、
人生もそんなものだろうか



本棚にあったポケット万葉集
ふと 開いたたら この句

旦那さんとの別れのようだった
・・・


高校の古文と漢文の授業が 大好きだった。
この時間は、眠らずに 一言も漏らすまいと
ノートに書きとっていた。
友人も それは同じだった。

附属の短大から教えにくる男の先生で 紫式部小野小町など とくに恋物語の解釈や心情表現は まるでそこにタイムスリップしているようだった。 
とくに古文は愉しかった。
ことばの解釈や韻を踏むなど 日本言葉の魅力を教えてくださった いちばん印象深い先生だった。
その柔らかなまなざし、表情、声まで 今も先生の語る熱意という温度とともに 昨日のように 蘇る。

続きの授業が受けたくて、先生の在籍する国文科は魅力だった。
身を立てる職業のため というのが無ければ、入り込んでいきたい わくわくとうっとりする世界だった。