ふと浮かんだのが 昔読んだ この詩でした
【海を見せる】 詩 寺山修司より
海を知らぬ少女の前に麦藁帽子のわれは両手を広げていたり
これは、私が15歳の時に作った短歌です。
実際、まだ海を見たことのない病院の少女に、海がどういうものかを説明する位、むずかしいことはなかったのです。
僕は、海がことばでは言いつくせぬほど広いんだ、と言いました。
「海は直径12700キロメートルの地球の表面の約70パーセントを、わずか3、8キロメートルの厚さでおおっている水の膜なんだ」
と言っても、少女はキョトンとするばかりでした。
「海は、何しろ、真っ青なんだ」ぼくは言いました。
すると少女は、「青い水なんて、ほんとうにあるのかしら」と言って笑うのでした。
そこで、ぼくは少女に海を「持ってきて見せてやる」ことにしたのです。
5月の海に、ぼくは、バケツをもって近づき、なかでも一番青い部分を汲んできました。
大急ぎで駆け戻り「さあ、持ってきてやったぞ」と病室に駆け込みました。
そして 「これが海だ!」と言いました。
でも、バケツに汲まれた海は、青くもなかったし、怒涛もありませんでした。
少女は、ぼくに「うそつき!」と言いました。
でも、ぼくは 返すことばもなく 途方に暮れてしまったのです。
「たしかに、さっきまでは海だったのに!」